意思決定のVCSループ

何かを決めるとき、人は何にこだわり、どんな基準でものごとを決めるのだろう。

お昼は何を食べよう。午後の仕事は何から片付けなきゃいけないか。新しい設備の導入に関して提案が来ていたな、何社かの見積もりからどう絞り込むべきか。そういえば来週は中途採用者の面接がある、どんな人材が来るのかな。

人は一日に3万5千回もの意思決定をしているそうです。おそらくそのほとんどが「なんとなく」「これまでの経験」で判断していると思います。いわゆる「ヒューリスティック(経験則や先入観に基づき、直感的に短時間で「正解に近い答え」を導き出す思考法)」です。仕事の経歴や社会経験が豊富なほど、ヒューリスティックに助けられます。「経験則」「おばあちゃんの知恵袋」です。

しかし便利な反面、偏りも生じます。思い込み、偏見、先入観、いわゆる「バイアス」です。人は知識と経験を積むことで判断力を向上させますが、同時にバイアスを身につけることを忘れてはなりません。個人の経験や環境による偏見、噂話をうのみにする思い込み、権威のある人の意見や古い伝統を妄信してしまうこと。そして人間特有の感覚、思い込みもあります(これらはフランシス・ベーコンの「4つのイドラ」という概念です)。


経営は意思決定の連続である

経営者も人間です。一日に3万5千回のプライベートな意思決定と並行して、経営の意思決定もこなすわけです。そこには深い経験則がありますが、バイアスも満ちています。

そこで客観的な根拠に基づく経営(エビデンス・ベースド・マネジメント)の出番です。コロナで流行ったあの「エビデンス」です。客観的な判断材料、データや実績を基に経営判断をしていく。間違っても「主観を排して」「客観データだけで」行うわけではありません。バランスです。

簡単・単純・繰り返しの判断ほど「客観性とそれに基づくルール」重視。より複雑で難解、頻度と類似性の低い高度な意思決定ほど「幅広い客観的根拠」を多く集めたうえで「経験」「知見」「勘」などを総動員して判断する。

スティーブ・ジョブスの毎日同じ服、イチロー選手の朝カレーと同時刻同じルートでの通勤——できるだけ「ルーティンには意思決定を行わない」姿勢、これは企業経営そのものに流用できる考え方です。


高度な意思決定に必要なもの

高度な意思決定は、豊富な客観的根拠があるだけでは出来ません。それらを分析したり意味を読み取ったりする人材が欠かせません。読みとって立てた仮説をもとに判断に至る議論や検討、ここは経験や勘の出番です。

中小企業経営者の苦労は、ほとんどの意思決定プロセスを自分一人で行わないといけないことです。創業者が鋭い勘と経験で様々な判断をこなしていくのは見事ですが、規模が大きくなる、事業内容が複雑になると目が届きません。知らないことも増えてきます。

営業・マーケティングと開発・生産、現場と管理。部門の立場で物事を見ない、トレードオフの関係を一つ上の視座から俯瞰して適切な判断を下せる経営人材をいかに育てるか。経営幹部の育成とは、意思決定の経験を積ませそのレベルを上げていくことです。


客観的根拠の整備——管理会計から始めよう

客観的根拠の少なさも中小企業経営者の課題のひとつです。まずは管理会計の整備から始めること。予実管理表、資金繰り表を基本として、商品別・得意先別の利益管理表、在庫表などが月次で閲覧できる体制が望ましいです。

これら管理データは「可視化」され意思決定の根拠となります。ぜひ幹部社員に共有させ、月次の会議で徹底した議論を通じて改善していってください。

VCSループが経営幹部を育てる

可視化された情報を基に部門幹部はその部下へと課題を共有し、対策を練り、成功・失敗事例や気づいた強みを吸い上げて他部門に横展開する役目を担います。部門に応じて原価や歩留りデータ、重要な業務プロセスの管理フローの整備などに発展・深堀されていきます。

これら「コミュニケーション」を通じて、課題や強みは共有され、改善され、手本となるノウハウや手法はルールとして「仕組化」され定着していきます。正しいVCSループは経営の基盤を固めると同時に、その経験を通じて経営幹部を育成していきます。

経営は部門運営の延長線ではありません。