【後編】SECIモデルの「動けない」を解決する——VCSループという実践の軸
前編では、SECIモデルが「わかるけど動けない」理由と、具体的な成功事例・失敗パターンを整理しました。
まだお読みでない方は、ぜひ前編からご覧ください。
前編で見えてきた根本的な問いは、こうです。
SECIモデルは「知識の変換を整理する地図」として優れている。しかし「誰が、どう動かすか」という実践の羅針盤としては弱い。では、その羅針盤をどう持てばいいか?
この後編では、その答えとして私が提唱しているVCSループをご紹介します。
VCSループとは何か
VCSループは、現場の知を組織の力に変えるための経営実践のサイクルです。
可視化(Visualization)
↓
コミュニケーション(Communication)
↓
仕組化(Systemization)
↓
また可視化へ…
3ステップとシンプルに見えますが、それぞれに「中小企業の現場で実際に機能する」ための設計思想が詰まっています。以下、SECIモデルとの対比を交えながら解説します。
VCSループの3ステップ
V:可視化——「見えていないもの」を俎上に乗せる
最初のステップは、現状・問題・ノウハウを「見える状態」にすることです。
SECIモデルのE(表出化)に近い概念ですが、VCSループはそこに具体的な問いを与えます。
「なぜそう判断したか?」「どこに注目しているか?」
「何をしたか」を記録しても行動の記録にしかなりません。判断の背景(=本当の暗黙知)を引き出すことが可視化の核心です。前編の事例で言えば、カイゼンシートへの「なぜ?」の記入や、看護師のセッションでファシリテーターが掘り下げ続けた問いが、まさにこれにあたります。
また、「何でも可視化しよう」としても機能しません。「今、組織にとって最も言語化されていない重要な知は何か?」という問いで、可視化の対象を選ぶことが先決です。
実践のポイント:
- 「書かせる」仕掛けを作る(書けない=まだ見えていない、という判断基準にもなる)
- 「なぜそう判断したか」を問うファシリテーター役を明確に置く
- 自然には言語化されない。問い続ける人間が必要
- 必要に応じて文書化・数値化を手助け、代筆する人を配置する
C:コミュニケーション——「伝わる」まで仕掛ける
VCSループで最も独自性が高いのが、このステップです。
SECIモデルのS(共同化)では「場を設ける」ことが強調されます。勉強会、合宿、対話の場。しかし前編の失敗パターン②で見たように、場があるだけでは知は動かない。
「掲示した」「通知した」「共有した」——それだけでは人は動かない。
VCSループでは、コミュニケーションを「知識を伝える手段」として扱わず、「経営者・管理職がリーダーとして能動的に仕掛けるもの」と定義しています。これが最大の違いです。
「場があれば自然に知が動く」という発想は、大企業や研究開発組織では成立しても、中小企業では機能しないことが多い。経営者・管理職が意図を持って仕掛け、「伝わるまでやりきる」ことが不可欠です。
実践のポイント:
- 「勉強会を開いた」で終わらせない。終了後に「気づきを文章で提出」させる仕掛けを作る
- 「なぜそう判断したか」を問う1on1や発表の場を定期的に設ける
- 情報の受け手が「自分ごと」にできるよう、文脈と問いをセットで届ける
S:仕組化——「再現できる」状態を作る
最後のステップは、可視化されコミュニケーションで磨かれた知を、誰でも再現できる仕組みに落とし込むことです。
SECIモデルのI(内面化)に相当しますが、ここにも決定的な違いがあります。SECIモデルは「内面化されたかどうか」の評価が理論的に困難です(前編の失敗パターン③)。これに対しVCSループは「再現できるか」という行動レベルの基準で仕組化を測定します。
キーワードは「属人性の排除」ではなく「再現性の確保」です。特定の人がいるから機能する、ではなく、仕組みがあるから機能する状態を作る。
実践のポイント:
- 「できる」の定義を先に決める(例:「1人で○○の判断ができる」)
- マニュアルや手順書は「作って終わり」にしない。使った結果のフィードバックをVに戻す
- 仕組化の完成は「ループを次に回せる状態」であり、ゴールではなく中継点
VCSループがSECIモデルの「ボトルネック(詰まりポイント)」を解決する
前編で整理した3つの失敗パターンと、VCSループの対応を並べると、関係がより明確になります。
| よくあるボトルネック | SECIでの現象 | VCSループの処方箋 |
|---|---|---|
| 言語化できない | E(表出化)で止まる | 「なぜそう判断したか」を問うファシリテーターを置く(V) |
| 共有されない | Cに進んでも誰も使わない | コミュニケーションを「仕掛けるもの」として設計する(C) |
| 定着しない | Iの評価ができない | 「再現できるか」という行動基準で仕組化を測定する(S) |
SECIモデルとVCSループ:地図と羅針盤
両者は競合するものではありません。役割が違います。
SECIモデルは「知識の地図」です。 組織の中にどんな種類の知があり、それがどう変換されているかを俯瞰するのに優れています。「どの知識がまだ暗黙知の段階か」を診断するアセスメントツールとして有効です。
VCSループは「経営の羅針盤」です。 「今、何をすべきか」「誰が動くべきか」「どうなれば次に進めるか」という実践の判断軸を与えます。
地図でどこにいるかを確認し、羅針盤でどう動くかを決める。
| 比較軸 | SECIモデル | VCSループ |
|---|---|---|
| 役割 | 知識の変換・移転を整理する地図 | 経営実践を動かす羅針盤 |
| アクションの明確さ | フェーズ移行の基準が曖昧 | 可視化→コミュニケーション→仕組化の順番と役割が明確 |
| コミュニケーションの位置づけ | 暗黙知移転の「手段」 | 経営行為として「仕掛けるもの」 |
| 評価・測定 | 内面化の評価が困難 | 「再現できるか」で測定可能 |
| 設計の対象 | 大企業・研究開発組織 | 中小企業・経営者視点 |
「どの知識がまだ暗黙知か」を診断するのにSECIを使い、「その知識をどう組織に巡らせるか」をVCSループで動かす。この組み合わせが、実践の場では最も機能しやすいと考えています。
まとめ:「動ける」フレームワークとしてのVCSループ
前後編を通じて、SECIモデルの本質的な価値と、実践で生じる壁を整理してきました。
SECIモデルが教えてくれることは本質的です。ただ、それを現場で動かすには「誰が、何を、どの順番で」という実践の軸が必要です。
VCSループはその軸として設計されています。
- 可視化:暗黙知に問いを当て、判断の背景まで言葉にする
- コミュニケーション:リーダーが能動的に仕掛け、伝わるまでやりきる
- 仕組化:「再現できる」状態を作り、またループを回す
「わかるけど動けない」を「動ける」に変えるための実践の枠組みとして、ぜひVCSループを活用してみてください。
VCSループについてさらに詳しく知りたい方、自社への導入を検討されている方は、お気軽にお問い合わせください。
← 前編https://jitugaku.com/vcs_loop:「SECIモデル、理論はわかるのに動けない理由」もあわせてご覧ください。
